1、研磨した基板表面上の透明電極AZOフィルムの特性
図 研磨した基板表面の凹凸の様子と、凹凸の部分にAlが高濃度に導入される機構の模式図。及び、そのAl濃度変化によるバンドギャップのブルーシフト
太陽光パネルの透明電極Al-doped Zinc Oxide (AZO)を、研磨した基板上にRFスパッタリングによって作製した場合の物性変化について調査を行いました。結果として、基板の研磨による凹凸によって、光分散性を示す指標であるHaze値が高いことがわかりました。また、十分に電気伝導性を保ち、非常に高い耐久性も示すことがわかりました。これは劣化の原因となるひび割れが、基板の凹凸によって伝導度に影響がでない程度の微小なスケールで緩和されたためと考えられます。また、基板の凹凸が、スパッタリング中のAlの導入機構を変化させて高濃度なAlを持つAZOを作製することとなり、このAl濃度が原因となってBurstein-Moss効果でバンドギャップがブルーシフトすることが判明しました。AZOを作製する上で重要な指針が得られたと言えます。(MRS comm., 2019, accepted)
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2、リチウム窒化ホウ素層間化合物のLiイオンバッテリーへの応用
図 リチウム窒化ホウ素層間化合物にLiが挿入された状態のエネルギー変化
リチウム窒化ホウ素(Li-BN)層間化合物の合成と熱安定性、電気化学的挙動について調査を行った結果、ボールミルと熱処理の組合せにより従来より温和な条件(700℃2時間)で合成可能であり、Li-C(グラファイト)系と比較して層間化合物合成に要する活性化エネルギーが大きく合成は困難であるが高温で安定であり、生成反応は非常に遅く反応も表面近傍に限られる事がわかりました。リートベルト解析および第一原理計算に基づく安定性の議論により、合成された化合物の構造モデルとしてLi(BN)9が最も可能性が高い事が判明。これらの知見により、Li-BN層間化合物はリチウム電池の高温負極材料として応用が期待されます。(J. Alloy. Compd., 751, 30, 2018, 324-334)
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3、酸高密度構造で起こるプロトン伝導機構Packed-acid mechanism
図 スルホン酸基同士の中に留まっていたプロトン(青)が、他のプロトンドナー(H3O+)からの酸相互作用によって水素結合が切れ、Reorientationが起こっている様子
酸が高密度な構造では、新規プロトン伝導機構Packed-acid mechanismが起こることが、第一原理計算によって理論的に示され、かつ実証されました。通常のプロトン伝導機構では、プロトンの正電荷が作る水素結合が強すぎるために、水素結合が切れる過程のReorientationが律速段階となります。このため、一般的にはこの正電荷を”薄める”ために、加湿して多くの水分子をプロトンに水和させることで水クラスターを形成し、Structural diffusionという機構で伝導します。しかしこの伝導機構は水分子を多く必要とするために、高温などの湿度を保ちにくい環境下では伝導性が激減するという欠点を持ち、固体高分子形燃料電池等のデバイスでエネルギー効率を低下させる要因となっています。これに対し、Packed-acid mechanismは酸同士が同じ電荷を持つために生まれる酸相互作用(反発力に似た力)によって水素結合を切り、水分子が必ずしも必要ではなく、低湿度でもプロトン伝導性を保つことがわかりました。Packed-acid mechanismはまだ証明されたばかりの伝導機構であり、多くの分野への汎用性が期待されます。(Chem. Sci. 2014, 5 (12), 4878-4887., Anal. Chem. 2014, 86 (19), 9362-9366.)
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4、窒素ドープ高機能光触媒
図 反応スパッタリングにより作成した窒素ドープ高機能光触媒の研究 (光学顕微鏡像(上)と電子顕微鏡像(下))
TiO2は高機能でかつ安定な光触媒として実用化されており、さまざまな商品に用いられています。しかし、バンドギャップの大きさから紫外光に限られているという欠点がありました。それを補うことを目的として、窒素および酸素の濃度を変化させてTiO2薄膜を反応スパッタリングにより作成しました。窒素ドープしたTiO2薄膜は可視光による光触媒能を示しました。(Appl. Surf. Sci., 324, 2015, . 339-348, Appl. Catal. B, 93,  2010,  217-226)
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5、YRu2触媒によるアンモニア合成
図 YRu2の、水素分圧を含め高圧条件でもより触媒活性の向上する結果
アンモニアは人工肥料の出発物質として不可欠であり、人類が消費する総エネルギーの1~2%ほどがアンモニア合成に使われ続けています。そして近年では、アンモニアの高いエネルギー密度と液化が容易であることから、再生可能エネルギーを貯蔵・運搬するエネルギーキャリアとして注目が集まっています。中でもアンモニアは原料である窒素が大気中に多く存在するため、反応後の窒素を回収する必要が無いというメリットを持っています。しかし、アンモニア合成は100年前に開発されたハーバーボッシュ法という高温高圧条件(400-500℃, 100-300気圧)で合成されるため、再生可能エネルギーのような分散して密度が薄く、エネルギー供給が不安定なエネルギー源をうまく活用できません。本研究では、金属間化合物YRu2がアンモニア合成に高活性を示すことが示されました。Ruは電子供与性の助触媒を添加すると高活性な触媒でありながらも、水素被毒をしてしまうという欠点を持ち、助触媒は被毒をさらに悪化させてしまうため、水素分圧を高くできないという欠点を持っていました。これに対し、YRu2は水素吸蔵能を持つために水素被毒を克服でき、かつYの電子供与性によって非常に高活性を示すことがわかりました。これによりアンモニア合成の反応条件が温和化し、人類消費エネルギーの低減やアンモニアを軸とする水素社会の実現に貢献することが期待されます(J. Phys. Chem. C 2018, 122 (19), 10468-10475.)。この他、均一系触媒を利用した、常温・常圧でのアンモニア合成にも取り組んでいます。こちらは触媒の耐久性や反応性が課題となっています。(J. Am. Chem. Soc. 2017, 139 (27), 9132-9135.)
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6、メカニカルミリングによる相転移
図 hcp Coを変形したときの分子動力学計算による時間経過と断面。fcc 配位を有する部分が拡大
メカニカルミリングにより様々な物質の結晶構造転移が認められ、新しい材料合成の手段として用いられていますが、その変態メカニズムについては未だ十分な知見が得られてませんでした。本研究では典型的な例として、メカニカルミリングによる安定なhcpコバルトからfccへの同素変態に着目しました。ボールミルを想定し、ボール間にコバルト粒子が挟まれ変形していく様子を分子動力学を用いてシミュレーションしたところ、稠密面の滑り変形がfccへの変態を促していることが分かりました。(Philosophical Magazine, 92, 2117-2129, 2012)
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7、磁気科学による新規現象・反応の発見と機構解明、そして制御への挑戦
図 加湿空気雰囲気におけるBiOClの表面被毒(黒線)とBiOCl-SmOClヘテロ接合による能力回復・高活性化
光触媒反応を含む不均一系化学反応や界面現象に対する磁場応答は、磁気科学分野の中でも報告等が極めて限定的であり未踏研究領域とさえ言われています。不均一系の特徴である界面では、反応や現象に関与する分子やイオンが界面近傍に移動し、反応が進行します。また効率的な反応生成物の界面近傍からの移動・除去も反応進行にとって重要な要因となります。これらの現象や反応に外部から磁場を印加すると、どのステップ・っ物質に最も影響を与えているか、など多くの事が未解明です。本研究ではこれらのいわゆる【磁場効果(MFE)】の中でも、特に光触媒材料として有名な酸化亜鉛(ZnO)や酸化チタン(TiO2)に対するMFEを調査しました。試料の調整法や測定法、溶存酸素濃度、表面状態、温度等の実験条件の制御・最適化により、MFE現象の高い再現性を確認し(メチレンブルー溶液の分解)、表面状態と溶存酸素の関わりがとても重要である事を明らかにしました。また条件を少し変化させると著しくMFEが変化する場合があるため、これらの条件を制御する事により、求める反応を大きく促進できる可能性がある事がわかりました。(RSC Adv., 1 (2011) pp.1060-1063, Appl. Magn. Reson., 42, (2012) 17–28, Catal. Today, 258 (2015)634-647,
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8、新規光触媒の発見・創製と機構解明
図 加湿空気雰囲気におけるBiOClの表面被毒(黒線)とBiOCl-SmOClヘテロ接合による能力回復・高活性化 図 光照射後、BiOCl結晶表面はアモルファス膜で覆われ粉末近傍にはデブリが散見される。電子回折は(a)デブリ (b)粉末 図 高湿度環境下光照射後のBiOCl-SmOCl粉末コンポジット。表面は凸凹形状を有し、断片的アモルファスパッチで覆われる。粉末近傍には多くのアモルファス状デブリが存在。
本研究では、従来の金属酸化物系光触媒、金属窒化物系光触媒と系統の異なるメタルオキシハライド系光触媒に注目しています.上の例では、BiOCl[ビスマスオキシクロライド]をLnOCl (Ln = Sm、Nd、La、Pr) とミリング混合することで、光触媒能(一酸化窒素NO分解能)が大きく変化しています(特に高湿度雰囲気).LnOCl は単体では弱い光触媒能しか示さないのですが、BiOClとミリング混合する事により、加湿空気雰囲気において表面被毒したBiOCl(黒線)の能力を大きく回復し、時間経過と共にさらに大きく活性化することが分かりましたす.詳細な電子顕微鏡(TEM)観察により、高湿度で光照射するとBiOCl表面に生成するアモルファス膜が被毒の大きな要因であり、LnOClとのコンポジット化によりこれが断片化してBiOCl本来の特性が回復するとともに、更にヘテロ接合の発現が活性化の要因である事が分かりました。(Chem. Comm., 53 (2017) 8854-8857)